新たな歩みを確かな一歩に ~舞鶴引揚記念館
投稿日時:2018年05月15日(火)
舞鶴引揚記念館が4月24日、開館30周年を迎えた。同館は、2期5年のリニューアル工事を終え、この日にグランドオープン。新たに体験施設を備え、歴史を次世代へと語り継ぐ場所としての新たな歩みを始めた。
平成25年から始まったリニューアル工事。同27年の第1期完了直後には、収蔵資料570点が世界記憶遺産に登録された。これを契機に入館者は増加する。第2期工事では、館を412平方m増築。従来の企画展示室を抑留生活体験室(47平方m)に改修し、館東側に新たな企画絵画展示室(156平方m)収蔵庫(97平方m)記念写真スポットを新設した。第2期の事業費は約3億4000万円。戦争を知らない世代に向け、「実際に体験できる」施設へと進化した。5日には、例年恒例となる「こどもの日の無料開放」を実施。丸太切りや丸太運び、ふかし芋やお茶のふるまい、天秤ばかり作りの体験など、実際に体験することを通じて引揚の歴史を学ぶコーナーが盛況の様子だった。引揚者のおもてなしを再現したコーナーでは、中学生の語り部サポーターが、それぞれ持ち寄った割烹着とモンペに身を包み、当時の雰囲気を演出していた。同館によると、この日一日だけで1000人を超える入館者があり、終日多くの親子連れで賑わっていた。地元の朝来から家族で来ていた堂田一葉(いちは)さん(8)は、「小学校の遠足で来たばかりだったけど、もっとじっくり見たかったので来られて良かった」と話し、弟の迅(じん)くんと共に、「寒いところで働かされて可哀そうだと思った」と感想を述べていた。両親の明宏さん(36)と久美さん(40)は、「自宅のすぐ近くにこうした施設があるのはありがたい」と話し、「まずは地元で学習し、平和の尊さを家族でともに学んでいけたらと思う」と満足感を漂わせた。
【「引き揚げの日」制定に向けて】
引き揚げ第1船の入港日である10月7日を「引き揚げの日」として制定するよう、舞鶴ユネスコ協会や商工会議所など20団体が7日、市に要望した。戦後の混乱期、心身共に傷ついた同胞を温かく迎えた舞鶴市民の博愛精神を風化させることなく、また、引揚やシベリア抑留の史実を継承し、平和の尊さを発信するきっかけとするのが狙い。「引き揚げ」は昭和20年、第二次世界大戦の終結後、海外に残された軍人と一般人あわせて660万人を、すみやかに帰国させる国の一大事業。軍港だった舞鶴をはじめ、浦賀、呉、下関など10港を引揚港に指定。舞鶴は13年間にわたり、約66万人の引揚者と1万6269柱の遺骨を受け入れた。今年は最後の引揚船入港から60年目であることや、舞鶴引揚記念館が30周年を迎える節目の年であることをふまえ、各団体が“子どもをはじめ、後世への継承を”と制定に動いた。関係団体は、舞鶴ユネスコ協会、舞鶴商工会議所、舞鶴自治連・区長連協議会、海の京都DMO舞鶴観光協会を発起人に、引揚語りの会や市福祉協議会、市老人クラブ連合会、国際ソロプチミスト舞鶴など20団体が賛同した。7日、20団体のうち11団体、11人が市役所を訪れ、要望書を堤茂副市長に手渡した。発起人代表で舞鶴ユネスコ協会の和佐谷寛会長は「73年が経過し、舞鶴市民にとって史実は過去の出来事として聞き及んではいるものの、関心は今一つ。日常生活の上で、忘れさられる可能性がある。平和の尊さを認識し、当時の市民の温かい行動や思いやりの心を誇るべき歴史として、後世へ継承することが私どもの使命と考える」と話した。堤副市長は「要望は市としてしっかりと受け止め、また、多々見市長とも相談して、具体的な対応について検討したい」と話した。開館から30年。同館の使命は変わらないが、時代とともに、存在価値も進化している。今回のリニューアルで、他にない施設であることがより鮮明になった。まずは市民がその価値をしっかりと認識し、その歩みがより確かなものになるよう期待したい。
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