心寄せ合う場所を目指して~引土新の本行寺 境内にピザ窯設置
投稿日時:2020年05月22日(金)
引土新の本行寺で3月、第29世住職に就任した木田慧明[えみょう]さん(65)が、境内にピザ窯を造っている。コロナ後を見据えて、積極的に動き始める新住職に話を聞いた。
市内で唯一の法華宗(真門流)の寺院である本行寺は、先代の住職が平成29年に亡くなってからしばらくの間、後任の住職が決まらずにいた。開創は弘治2年(1556年)で、当地を治めた京極丹後守高知の菩提寺であるなど、由緒ある同寺。宗派の注目を集めた後任者に決まったのは、福井県越前町の大隆寺で住職を務めていた木田さんだった。宗派の教化部長も務める木田さんは、来年迎える日蓮大聖人の生誕800年を前に、漫画形式でその一生を分かりやすく伝える「日蓮(上下巻)」を上梓するなど、時代に合った宗教活動を常に模索している。本行寺への着任について木田さんは、「新たな挑戦が出来ることに胸躍る気持ちだ」とし、コロナ禍に喘ぐ現在の世情に触れ、「自然災害や疫病に人々が苦しむ中、宗教が生れた。苦境に陥っている現状を、暮らしを見直すチャンスと捉えたい」と力を込める。2月からコロナ退散を願って唱題行を行っているという木田さんは、「新たなご縁に使命感を覚えている」と話した。
【時代が求める 寺の役割果たす】
木田さんは昭和30年、福井県越前町で生れた。4人きょうだいの末っ子。生家は雑貨店を営んでいた。長じて進んだのは、福井大教育学部。保育の道に興味があり、福井県第一号の男性保育士となった。順調にキャリアを積み、「いずれは理想の保育園をつくる」という夢を抱きながら職務にまい進した。しかしある時、転機が訪れる。保育中の事故で頸椎を痛めてしまったのだ。半年間に渡って眩暈や吐き気に苦しむなど、丸2年間は仕事のできない状況に追い込まれて職を失った。そんなどん底の日々で救いを求めたのが、日蓮大聖人の教えだった。38歳で得度し、先輩僧侶に勧められ、大聖人の霊跡をたどる旅に出た木田さんは、1カ月をかけて400キロを踏破。その後、首の痛みが消えていることに気が付いたという。その時決意したのが、「残りの一生は仏様に身を捧げよう」という思いだった。縁のなかった仏教界に身を置いて30年ほど。新天地での木田さんの挑戦が始まった。宗派には現在、200か寺ほどが存在するというが、寺を取り巻く環境は厳しさを増している。木田さんは、「遠くない将来、半減するのではないか」と予測し、「今こそ宗教が本領を発揮すべき時だ」と話す。また、「古くから寺は信仰の場所であると同時に、住民が心を寄せる場所であり、文化や芸術の発信地でもあった。強い地域、賑わいのある地域をつくっていく上でも、寺の存在は大切になってくる」とし、ピザ窯設置の動機を、「災害発生時の避難場所となることも想定した結果だ」と話した。窯の材料は全て一人で調達し、組み上げたという。来月には完成させてピザを焼く予定だ。今後は、ピザ窯設置を皮切りに、「人が集まる仕掛けを積極的に展開していく」と決意を述べる木田さん。「地域の結びつきを強めるお寺の取り組み」。その挑戦を期待しながら見守りたい。
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