古の信仰 今なお
文殊菩薩像・10年ぶりに住民の元へ
京都芸術大での保存修理が完了
菩薩像の歴史 紐解く鍵も
投稿日時:2022年07月26日(火)
布敷地区の住民が代々祀ってきた文殊菩薩像が、10年間に及ぶ修復作業を終えて地域に戻ってきた。7月17日には布敷公民館で住民らを集めた説明会が開催され、続いて入魂式が行われた。
明治時代に誕生した池内村の村役場が置かれた布敷では、古くから弥勒仏と文殊菩薩を信仰の対象とし、毎年7月4日を「みろくさん」、24日を「もんじゅさん」として地区の行事が営まれている。本紙1993年3月26日号に掲載した松本節子氏による「舞鶴・文化財めぐり」では、「池内谷には、禅宗寺院の布教による寺行事のほかに、このような旧仏教系の祭祀習俗が、地域と家の中に今も息づいています」と紹介されている。
このように歴史ある布敷地区で、自治会が2009年度に地域活性化を目指した「舞鶴市地域づくりサポート制度モデル地域」の採択を受け、地域ビジョンを策定。様々な取り組みを実施する一環で、弥勒仏を祀っている弥勒堂の屋根修理が行われた。その際、堂内に安置されている弥勒仏の損傷が確認されたことから、京都造形芸術大(現・京都芸術大)歴史遺産学科が保存修理の委託を受けるに至った。また、同様に損傷の激しかった文殊菩薩像についても保存修理が進められることになり、2012年4月2日に搬出された。菩薩像にとっては、再生に向けた長い旅のはじまりだった。
【幾多の苦難 共に乗り越えた もんじゅさん】
17日の説明会。布敷公民館は30人ほどの住民が詰めかけた。10年ぶりに目にする文殊菩薩像に、一人ひとりの目は輝いて見えた。
修復過程を事細かに説明したのは、愛知県立芸術大と京都芸術大で非常勤講師を務める日本画家の中神敬子さん。クリーニング作業に始まり、左手など欠損部分の制作など、作業手順に沿った丁寧な説明が繰り広げられ、住民らは熱心に耳を傾けていた(㊦写真)。
作業を通じて像についての理解が深まったとする中神さんは、「形式からすると像は江戸時代のもの」と推測。かねてから指摘されていた獅子と菩薩のバランスの悪さについては、「別のものを組み合わせた可能性がある」と述べた。また、江戸中期に地区であった大火の歴史に触れ、「その時に文殊菩薩像のみを持ち出した住民が新たに獅子像を製作し奉納した可能性が高い」と結論付けた。
【文化引き継ぐ心意気 信仰守る地域の品格】
説明会の後で行われた入魂式では、高福寺(別所)の松本泰一住職が法要を執り行った。
前出の「舞鶴・文化財めぐり」で松本氏は、「この文殊堂のある山麓一体は、布敷地域の墓地になっています。古来の葬送習俗と伝来の宗教である仏教とを溶け合わせてきた人びとの、長い年月を積み重ねた祈りのエネルギーを、この文殊堂に見ることができます」と書いている。
この日、10年ぶりに文殊菩薩像に対面した住民からは、まさにその静かで強い祈りのエネルギーが満ち溢れていた。
その姿を見守った中神さんは、「文殊菩薩像自体も非常に品のあるお姿だが、こうして地域の文化を引き継いでいく心意気に、地域の人たちの品格を感じる。こうした人たちだからこそ、長年こうして信仰が守られてきたのだと思う」と感嘆の声を漏らしていた。
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