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加佐の誉れ 世界へ<br>池田酒造・世界有数の品評会で高評価<br>受け継がれた老舗の誇り<br>更なる飛躍に向け二人三脚

加佐の誉れ 世界へ
池田酒造・世界有数の品評会で高評価
受け継がれた老舗の誇り
更なる飛躍に向け二人三脚

投稿日時:2022年05月20日(金)

認定証と受賞酒を手に笑顔を見せる池田夫妻

 舞鶴市内唯一の酒蔵である池田酒造(池田恭司社長)が5月12日、英国で開催された「インターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)2022SAKE部門」でシルバーメダルを受賞した。一時は自社製造から撤退した造り酒屋が、再生への苦難の日々を乗り越えて掴んだ栄冠。老舗に脈々と流れる情熱の源泉を追った。

 IWCは、1984年に設立された世界的に最も権威のある最大規模のワイン品評会。近年、日本酒の愛飲者が世界で飛躍的に増えていることから、2007年よりSAKE部門が創設された。例年、各国から専門家を集めた審査では、カテゴリーごとに審査員によるブラインドテイスティングが行われ、その成績により評価が決定される。今年のSAKE部門には、世界中から462社1732銘柄の出品があり、14か国総勢53人が審査に当たった。
 池田酒造が出品した純米酒の部には計318銘柄が出品され、同社の「特別純米 加佐一陽」は、44銘柄に与えられたシルバーメダルに見事輝いた。日本酒に馴染みのない人にも飲みやすいようにと、フレッシュさを前面に出した酒を目指したという品は、「軽い飲み口で外国人にも飲みやすい酒」に仕上がったと池田社長(53)。同社は、これまでにもタイをはじめ、中国・台湾・シンガポールに輸出しており、国際的な評価を受けたことで池田社長は、「今後、海外での販売拡大に弾みがつく」と笑顔を見せた。


 【信頼が醸す夫婦酒・日ごとに味わい深く】
 現在、同社で酒造りの責任者として活躍するのは、池田さんの妻、菊江さん(49)。兵庫県尼崎市出身で、元イタリア料理のシェフだった菊江さんとは、知人の紹介から縁を紡いだ。
 3人の子育てに奮闘しながらの酒造りは、多忙を極める。アルバイト二人に手伝ってもらうものの、その大半は夫婦の仕事だ。
 しかし、生来の旺盛な探求心が原動力となり、「一進一退の繰り返し」の酒造りは着実に進化を続けている。 
 元はほとんど飲まなかったという日本酒。だが、様々な酒を全国から取り寄せて飲む中で、飛躍的に味覚は磨かれ、作りたい酒のイメージは鮮明に像を結んでいる。そのゴールに如何にして近づけるか。菊江さんは、果てなき深淵をのぞき込む毎日を過ごしている。
 そんな妻を評し池田さんは、「非常にチャレンジ精神が旺盛」とし、その実行力に舌を巻く一方で、「いろんなことをやりたがる。私は保守的でブレーキ役」と苦笑する。
 そんな二人がつくりあげた「加佐一陽」は、イタリア語で家を意味するカーサを重ね合わせ、地域や家庭に温もりをもたらす酒の意を名づけに込めた。
 【明治の蔵 令和に飛躍】
 池田酒造の創業は明治12年。池田さんが6代目となる、市内屈指の老舗だ。
 池田さんが幼少の頃、活気ある蔵は近寄りがたい場所だった。「口にすることもできない酒と、それをつくっている蔵は、壁一枚を隔てた異世界のように感じた」と振り返る池田さんは当時、蔵を取り仕切る祖父から、「いずれ継いでほしい」という無言の圧力を感じたという。しかし、昭和の終わり頃、大手メーカーの下請け仕事が打ち切られたことで、自社製造を断念。会社は原酒を仕入れて販売する形で存続したが、池田さんは別の道に進むことになった。
 転機が訪れたのは平成18年。母方の叔母である池田孝子さん(故人)が、酒造りを復活させたいと一念発起。当時、建材商社で営業の仕事についていた池田さんも入社を請われ、悩み抜いた末に挑戦を決意。最後は「かつての蔵を再び」という気持ちが背中を押した。
 酒造りの技術はすでに失われていたが、二人は独立行政法人酒類総合研究所の酒類醸造講習を受けて、約20年振りのとなる池田酒造の酒を造った。わずか約200本の酒ではあったが、それは力強い再生の狼煙となった。
 それから10数年。6代目夫婦で切り盛りする蔵は、新たな一歩を踏み出した。
 晴れやかな勲章を手にしても、酒造りを担当する菊江さんは、「今回、うれしさというより、ゴールドメダルを取れなかった悔しさが大きい」と話し、二人は「今回は次への通過点。より高みを目指し、夫婦で力を合わせて頑張りたい」と口をそろえた。
 老舗再生の物語は、まだ始まったばかり。夫婦が紡ぐ新章から、今後も目が離せそうにない。

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