「新しい文庫山学園」求めて利用者らの署名活動2000筆を超える
投稿日時:2020年11月17日(火)
高齢者福祉の向上に対し、これまで長年に渡って重要な役割を担ってきた「文庫山学園」が、2021年夏に廃止される予定となっている。市は、旧市民病院西棟を活用した多世代交流施設「まなびあむ」を移転先にするとしているが、これまで無料だった利用料は有料となり利用者たちが反発。これは「移転」ではなく、「事実上の廃止」だとし、新しい文庫山学園を求める署名活動を展開。来月開催される市議会へ、請願書を提出する準備を進めている。
文庫山学園がオープンしたのは1980年。老人福祉向上の必要性が叫ばれ出した当時、近隣地域で類を見ないほどの充実した設備を有する施設が誕生した。4億6300万円を要した整備費には、市出身の実業家・河守浩さんから巨額の寄付金や、老人クラブ会員と多くの市民からの募金も充てられた。鉄筋コンクリート平屋建て1986平方メートルの本館には99畳の大広間などを備え、バドミントンが出来るミニ体育館をはじめ、図書室や浴室、調理室、茶室、会議室もあり、入浴も含めて、60歳以上の高齢者に無料で開放してきた。現在、同学園には、絵画教室やカラオケ、踊り、健康教室など22のサークルがあり、開館からこれまでの間に延べ212万人もの市民が利用。生き生きと人生を送る場所として大切にされてきた。今回の「移転話」について利用者たちは、当初は「施設が新しくなるし楽しみだ」と考えていたという。しかし市から示された概要は、高額な利用料金が必要になるなど、「どう見ても老人福祉を重視したものではない」とし、署名活動を開始。現在、2000筆を超える署名が集まっている。
【ささやかな楽しみを奪わないで】
同学園を代表して署名活動の先頭に立っているのは、カラオケサークルに所属する山口ムツ子さん(72)、絵画サークルに所属する大野翼さん(79)、同サークルで講師を務める村尾清さん(68)の三人。それぞれ縁があって始まった「学園生活」は、「人生になくてはならない彩りだ」と口をそろえる。新施設にはカラオケ設備を置くスペースもなく、部屋の利用料やマイク代もかかることから、山口さんは「わずかな年金で続けるのは困難」と肩を落とす。60歳から始めたカラオケで持病の喘息を克服したといい、「ささやかな楽しみを取り上げないでほしい」と話している。備品の保管場所が必要になる「絵画サークル」、天井が低いため物理的に継続不可能となる「バドミントンサークル」など、廃止せざるを得ないサークル活動もあり、「利用要件が大幅に変わることを踏まえると、「これは施設の廃止に他ならない。高齢者だからと言って甘えるなと平手打ちされた思い」だと三人は憤る。施設の利用を始めて10年になるという大野さんは「拠りどころがなくなって、心と体の健康を損なう人が多く出てくると思う」と危惧。村尾さんは、「医療費削減の観点から、健康寿命の延伸は重要な命題。超高齢化社会の到来に向けて、今回の決定は逆行している」と話している。文庫山学園の跡地は観光振興事業用地として使用されることが濃厚となっているが、コロナ禍も手伝い「観光で稼ぐ力」への期待にも陰りが見え始めている。市政に突き付けられた「選択」への市民同意に向けて、今後より一層難しい舵取りを求められることになる。
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