京大水産実験所・本館は赤れんが造りだった 建て替えで取り壊しの危機 【舞鶴】
投稿日時:2002年03月12日(火)
長浜の京都大学大学院農学研究科付属水産実験所の本館が、建て替えに伴って今夏以降に取り壊されるおそれが出てきた。本館は赤れんが造りで、昭和4年(1929)に建設された旧海軍の火薬厰爆薬部の元庁舎。終戦近い一時期、特殊潜航艇の基地としても使われていた。が、外見かられんが造りと分からなかったため、市内の赤れんが建造物の調査対象からはずれ、未調査のまま。NPO法人「赤煉瓦倶楽部舞鶴」は、すでに京大側に調査と保存の検討を要望。市は近代化遺産をまちづくりに活かしているが、今後市民の間でも論議を呼びそうだ。
昭和四年、海軍の爆薬を開発、製造した爆薬部が神奈川県平塚から舞鶴へ移転し、長浜に建設された。同16年に第3海軍火薬厰となり、翌年朝来地区へ移転。その後、火薬厰は特殊潜航艇(人間魚雷)の訓練をする潜水艦基地隊となった。
同22年、京大農学部水産学科がこの地に開設され、元庁舎を本館として使用。同47年、同学科は京都市内に移転、跡地に水産実験所が設置され、本館は教育研究棟として職員と学生の研究室などに使われてきた。
本館は鉄骨れんが造り2階建て、建物面積1766平方メートル。20年前に専門家が耐震診断をした際、部屋の漆喰(しっくい)の壁をはがし、中に積まれた赤れんがを見つけた。建物の所々かられんががのぞいているが、外壁のれんがにモルタルが塗られていたため、その後もれんが造りとは気づかれなかった。日本ナショナルトラストが平成8年市内の赤れんが建造物約120件を確認し、報告書を出したが本館は調査されずにきた。
壁の崩壊の危険が高く、実験所は京大施設部に建て替えを長年要求。最近では雨漏れや壁の表面がはがれるなどしている。昨年、京大は歴史的建造物に考慮して改修も念頭に入れ建物を点検したが傷みがひどい上に、耐震構造工事に約2、3億円かかるため改修での建て替えを断念。代わって新しい建物を作ることにし、3月から本館前に研究棟と飼育棟を建設、4月中旬までには完成する。新施設の完成後、すぐに本館は取り壊される予定にないが、予算がつけば今夏以降にもとりかかる可能性もある。
昭和35年から本館で学び、42年間実験所に在籍している同研究科助教授の中村泉さん(63)は「本館2階の研究室にはえらい先生ばかりで近づけなかった。記念館として残らないか」、本館に研究室をもつ同科助手の上野正博さん(51)は「老朽化しているので仕方ないのだが、価値ある赤れんが建造物なのでサマーハウスなどの形で残してほしい」と話していた。
赤れんが建物を活かしたまちづくりに取り組む「赤煉瓦倶楽部舞鶴」は昨年、「専門家による調査を行い、保存再利用の方向で検討を」との要望書を京大学長あてに提出した。同舞鶴事務局長の馬場英男さんは「歴史的、建築学的な記録をとる必要があり、まず専門家による調査が先決。その上で現状のまま置いておき、活用法を考えては」と性急な取り壊しを回避してほしいとしている。また、市教委文化財保護係長の吉岡博之さんは「近代化遺産という位置付けであるなら残してほしい。まず京大側で建物の調査をしてほしい」と話している。
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