次世代への継承着実に~取り組み奏功 コロナ禍でも際立つ存在感
投稿日時:2020年10月09日(金)
コロナ禍の影響で、各地の観光施設は大きな影響を受けている。当地を訪れる観光客も大幅な減少が続いており、以前は市内で多く見られた観光バスの往来もすっかり影を潜めている。そんな中、着実な取り組みが奏功している舞鶴引揚記念館が、その存在感を強めている。
ユネスコ世界記憶遺産へ登録された2015年以来、同館への来館者は順調に増加。「交流人口300万人 経済人口10万人」を標榜する市にとって重要な役割を果たしてきた。しかし、新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言発出以降、それまで来館者の多くを占めていた観光バスの来訪が皆無となり、来館者数は激減。それでも、同館スタッフは山下美晴館長を中心に、施設の消毒作業など地道な業務を続けながら、継続的な情報発信に努めてきた。今、そんな努力が徐々に実を結びつつある。コロナ以降近畿圏を中心に、小中学校等の教育旅行による来館が増えているというのだ。昨年度(2019年4月~2020年3月)に市外から教育旅行で来館した学校は22校だったが、今年度はすでに34校の来館を記録(予約を含む)。これは、コロナによって実現しなかった旅行の代替プランで一時的なものだという見方もあるが、「こどもたちにとって素晴らしい学びの場だ」と絶賛する声が多く届くなど、「今後の展開に期待が持てる」と山下館長は話している。
【食を通じて 平和を願う】
同館は市教委の協力を得て、今月から新たな取り組みに着手する。福井小では5日、市内25小中学校の先陣を切って、児童らに「舞鶴引揚給食」が提供された。これは、食を通じて引揚の歴史に触れ、恒久平和への願いを高めてもらおうというものだ。献立は残された資料を参考に、引揚援護局で引揚者が口にしたものを再現した。当時、引揚者は援護局の宿泊施設で3~6日間滞在した。その間に、それぞれが故郷に帰るための手続きなどをしたというが、記録が残された献立はいずれも栄養豊富なもので、「少しでも良いものを食べてもらい元気づけよう」との想いが伝わってくる内容となっている。この日の給食で出されたものは、「アジとじゃがいもの天ぷら、カレー汁」。1958年の夕食として記録に残る献立だ。児童らは校内放送によるメニューの紹介を聞いた上で、実食。それぞれが感想を口にしながら、当時に思いをはせていた。取り組みは今後も継続するとしており、山下館長は「6年生は全員、当館へ学習に訪れるが、それまでに毎年こうした取り組みを継続することで、史実の継承がより効果的に進む」と期待を込めていた。
【全国5738博物館 堂々12位の快挙】
世界最大の旅行プラットフォームである「トリップアドバイザー」は、「旅好きが選ぶ!日本人に人気の美術館・博物館ランキング2020」を発表。舞鶴引揚記念館が12位に入る快挙を成し遂げた。順位の選考基準は、2019年6月~2020年5月の一年間で、トリップアドバイザーのwebサイトに投稿された口コミを、独自の方法で集計したとしているが、上位には鉄道博物館(さいたま市)や、長崎原爆資料館(長崎市)など名だたる施設が名を連ねる。山下館長は、「コロナ禍で日々、不安な気持ちと闘いながら頑張ってきたスタッフの励みになる。これからも気持ちの良いお出迎えと展示の充実を心がけていきたい」と話した。1988年に開館した同館。当初は、引揚者が往時に思いをはせる場所だった。しかし、時代の移ろいと共に、館は進化し続けている。これからも、その動向から目が離せそうもない。
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