西高野球部 46年ぶり8強
投稿日時:2018年08月03日(金)
第100回の節目を迎えた「夏の甲子園」。75校がしのぎを削る京都大会で、西舞鶴高野球部が、46年ぶりに8強入りの快挙を成し遂げた。シード校の強豪・東山高に一歩及ばす、4強入りは逃したが、選手たちの堂々とした戦いぶりに当地は大いに沸いた。本紙では、その快進撃の舞台裏にある物語を追った。
東山高との激闘を終え、同校野球部の「夏」は終わりを告げた。最後の打者が打ち取られた瞬間、灼熱のわかさスタジアムで、ある者は悔しさに顔を歪め、またある者は満足げに青空を見上げた。そんな中、選手たちとは違う立場で試合終了のサイレンを聞いた女子生徒たちがいた。同部のマネージャーを務めた3人だ。1年生から苦楽を共にした選手たち。大会前に目標と定めた「ベスト8」の景色を経験させてもらったことに、「ただ、感謝しかない」と3人は口をそろえる。城南中テニス部出身の川端千彩ちささんと山田春乃はるのさん、和田中ソフトボール部出身の伊東茉生まいさんの3人は、入学してすぐマネージャーとして入部した。それぞれが裏方として携わる部活動に、思い思いの魅力を感じた。しかしながら、その道程は平たんではなかった。昨年夏、新チームが動き出すと、チーム運営の難しさが次々と露呈した。強い気持ちで臨んだはずの春の大会では、2回戦で宮津高に7対1で敗れた。点差以上の完敗で、完膚なきまで叩きのめされたチームは、空中分解の危機を迎えた。危機的状況の中、ただ心がけたのは普段通り。「見守るしかできなかった」と振り返る3人は、「そのチームがよくぞここまで」と笑顔をはじけさせた。
【試練を乗り越えて】
主将の佐藤竜樹さん(3年)は、加佐中出身。毎日40分をかけて自転車通学する、自分に厳しい努力家だ。新チームの主将に任命されて以降、大きな重圧がのしかかってきた。思うように上がらないチーム力。練習試合では一進一退を繰り返した。夏を占う試金石となる春の大会。チームは宮津高に完敗を喫した。不甲斐ない自らに嫌気がさし、冷静でいられなかった。自分を責め、周りを責め、全く気配りができない自分がいた。チームは不穏な空気に覆われ、練習どころではない日々が続いた。「このままではだめだ」我に返って足元を見つめ直した。チームで戦えるようになって、はじめてスタートライン。今こそ、主将の責務を果たさねばならない。そこからは、とにかく対話を繰り返す地道な努力を続けた。時には、耳の痛い苦言も受け入れた。自分が変わらねば、チームは変わらない。そう信じて日々を過ごした。春が過ぎ、夏の声が聞こえ始めた頃、日々の努力は明らかにチームの雰囲気を変えていた。練習試合では、勝ちきれない試合もあったが、状態が上向いている手応えは、チームの皆が感じ始めていた。佐藤さんら3年生にとっての最後の夏の大会は、そうして幕を開けた。
【快進撃の舞台裏で】
「負ける気がしなかった」2年生の昨年から主力で活躍する網干拓馬さん(3年)は、力強い言葉で大会を振り返った。リードされていてもベンチには活気が溢れていた。転機となったのは宮津高との一戦。春に完敗した相手に対して、理想的なゲームを展開した。「このチームはもっと行ける」と確信した。公式戦で負けている福知山成美戦も、最後まで負けるイメージがなかった。シード校相手にも一歩も引かない。それぞれの自信と強気がチーム力を押し上げていた。はじめて経験するベスト8。試合はテレビ中継もあり、勝ち残ったチームはいずれも名のある強豪校。だが気後れすることはなかった。日々の鍛錬に裏付けられたチーム力への自負があった。それ故、劣勢を強いられた東山高との戦いも、最後まで「勝てる」と信じられた。だが、負けた。その瞬間、不思議と悔しさはなかった。むしろ、やり切った充実感に包まれた。しかし、一晩すぎると、遅れてきた悔しさに襲われた。「僕らは、もっとやれた」
【悔しさのその先に】
「打たせてもらったヒットだった」サヨナラ勝ちを決めた成美戦でのタイムリーヒット。大会を通じて主軸として活躍した坂根裕二さん(3年)は、歓喜の瞬間を振り返った。46年の長きにわたって阻まれた分厚い扉。最後は見えない力のあと押しを受けて、こじ開けることが出来た。「次はもっと上を目指してほしい」坂根さんをはじめ、引退する3年生は、口をそろえる。やはりベスト8の風景は、これまでとは違っていた。だけど一方で、普段からの延長でしかない試合でもあった。「下級生たちは、僕たちの世代よりも確実に個々の能力が高い。ベスト4、優勝が狙えるチームを作ってくれると信じている」46年ぶりの経験値は、次の高みに登る布石だ。3年生たちの力強い言葉に、同高野球部の更なる飛躍を確信した。次の夏、タスキをつないだ下級生は、更にたくましい姿を見せてくれると期待したい。
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