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今こそ継承を<br>札幌の建部さん<br>「シベリア抑留」の児童書を寄贈申し出<br>利尻島在住96歳 現役漁師の体験談<br>「黒パンと交換した腕時計」

今こそ継承を
札幌の建部さん
「シベリア抑留」の児童書を寄贈申し出
利尻島在住96歳 現役漁師の体験談
「黒パンと交換した腕時計」

投稿日時:2022年06月28日(火)

著書を手にする建部さん(提供)

 札幌市で歯科衛生士の仕事をしながら「シベリア抑留」についての発信活動に取り組む建部奈津子さん(48)がこのほど、児童書「黒パンと交換した腕時計」を自費出版した。クラウドファンディングを活用して費用を調達し、これまでに1000部を発刊。全国各地の図書館200館と点字図書館77館などへ寄贈した建部さんは、「引き揚げ」とゆかりの深い当地の市民へ10部を新たに寄贈したいと申し出ている。

 FMラジオパーソナリティとしても活躍する建部さん。活動の始まりは約7年前、戦争体験者の話を聞くイベントへのボランティア参加がきっかけだった。
 初めて聞いた体験談を「衝撃的だった」と振り返る建部さんは、「祖父母との関わりが薄かったので、こういうつながりを求めていたのかもしれません。イベントが終わってからも『自分の経験も話したい』『どこか話せる場はないか』と相談を受け、私にできることがあれば、という気持ちでイベントを継続してきました」と話す。
 そうした活動を長きにわたってブログに記録してきた建部さんだったが、ある時「あなたの本を読みたい」と言われたことに背中を押され、出版を決意。かねてから親交のあった利尻島在住の現役漁師である吉田欽哉さん(96)の体験談を児童書としてまとめることに決めた。90歳から始めた語り部活動で、「まだ冷たい氷の下さ仲間が眠ったままだ。必ず迎えに行くと約束したんだ」と語り続ける吉田さん。出版は、その活動を支えたいという思いも大きかった。

物語の主人公である吉田さん(提供)

【戦争の悲惨さ 次世代に伝える】
 昭和19年。19歳で召集された吉田さんが物語の主人公。衛生兵として樺太で終戦を迎え、その後シベリアに抑留され4年間の過酷な生活を送った体験がつづられている。タイトルとなった「黒パンと交換した腕時計」は、隠し持っていた大切な時計を黒パンに交換した吉田さんが、せっかく手に入れた黒パンを同じ日本人に盗まれるというエピソードをもとにしている。戦争で争うのは敵国だけではなく、信頼していたはずの仲間にさえ裏切られることもある。「悔しくて情けなくて、声を殺して泣いた」という吉田さんの体験は、戦争の愚かさを鮮明に描き出している。
 建部さんは、吉田さんが語り部活動で決まって口にする「いまだにシベリアの永久凍土には祖国に還ることが出来ない3万柱以上の遺骨が眠ったままでいる。果たして安らかに眠っているのだろうか。遺骨が遺族の元へ戻るまで戦争は終わらない」との言葉を聞くたびに、体験を語り継ぐ重要性に背筋が伸びるという。
 シベリア抑留の研究書は数多あるが、児童書は極端に少ないことに目をつけた建部さん。年代を問わずに読んでもらえるようにと、イラストも多用しフリガナもつけた。
 建部さんは「いまロシアとウクライナでは悲惨な状況が続いています。戦争が起きるとは、予想も出来ませんでした。しかし実際に起きたのです。同じことを繰り返さないためには、忘れないように継承するしかないのです」と寄贈に込めた思いを語った。
 本の希望者(個人・団体問わない)は郵便番号・住所・氏名・電話番号・「 建部さんの本」係と明記し、7月27日までに申込を。応募はがき(宛先〒624・0841引土171・6 舞鶴市民新聞社)℡(77・1750)Eメール(maipress@topaz.ocn.ne.jp)で受付。応募者多数の場合抽選。本の発送をもって発表にかえる。

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