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「生きる」は楽しい、素晴らしい<br>タンデムを楽しむ会<br>定期開催の体験会

「生きる」は楽しい、素晴らしい
タンデムを楽しむ会
定期開催の体験会

投稿日時:2021年07月23日(金)

「人との関わりの中で
楽しいことはきっと見つかる」

 開催をめぐり紆余曲折のあった東京オリンピックがいよいよ開幕し、8月24日からはパラリンピック大会も実施される。障がい者スポーツの最高峰であるパラリンピックは、「人々に勇気と希望を与える」ものとなることが期待されるが、こうしたスポーツに取り組む人ばかりが世の中を照らすものではない。
 突如として暗転した人生にめげることなく自らの障害に向き合い、明るく日々を過ごす人たちを取材した。

 6月のある日、梅雨を感じさせない爽やかな天候のもと、タンデムを楽しむ会(綾部市)の主催する体験会が行われた。会場となった中総合会館に集まったのは、同会会員や身障センターの職員ら約20人。
 参加者たちは、同会が所有するタンデム自転車に乗り、楽しいひと時を過ごした。
 タンデム自転車は、前に乗る人(パイロット)と後ろに乗る人がコミュニケーションをとりながら、力を合わせてペダルをこぐことで一体感が得られ、サイクリングの新しい楽しさを実感できる乗り物。視覚障害のある方をはじめ、ひとりで自転車に乗ることが困難な人にとって、自らの力でペダルを回し心地よい運動ができる画期的なツールとなっている。現在6台のタンデム自転車を所有する同会は、タンデムの普及と楽しい行事の開催を目的に、2015年に設立した。現在、中丹・丹後地区を中心に約50人の会員を擁し、2カ月に1回くらいの頻度で体験会を開催している。
 同会に所属する神田昌胤(まさつぐ)さん(73)は、「天気も良くてよかった。皆さんが笑顔で一緒にごせることがとてもうれしい」と笑顔を見せた。
【どんな時も前を向いて】
 順番に走行を楽しむ人たちの中に、ひときわ一体感を持って自転車に乗る二人がいた。田中光重さん(73)・壽美さん(67)夫妻だ。
 夫の光重さんがパイロットを務め、妻の壽美さんが後ろに乗る。
 「夫に乗せてもらうと好きなことが言えるから楽。突然曲がったりするから、その都度、文句を言うんですよ」と壽美さん。会話の端々から仲の良さがうかがえる二人は、同センターの中でもおしどり夫婦で有名だという。
 壽美さんが完全に視力を失ったのは7年前。視力に難を抱えたのは、40歳の頃に診断された「網膜色素変性症」が始まりだった。
 最初のうちは、わずかに感じ始めた違和感だった。しかし、快方に向かうことはなく症状は徐々に進行。60歳になるとガン治療の副作用で、失明に至った。
 「なんでも自分でこなす行動的な人」であるという壽美さんはそれまで、車も運転し好きな場所どこにでも好きなように行くことができた。
 徐々に進行した症状でもあり、「覚悟はできていた」とはいえ、それまでと大きく変わる日常生活である。不便がないわけはないが、「最初から常に前向きだった」と光重さんは当時を振り返った。
 壽美さんは「目が見えなくなっても、常に何か楽しいことを見つけようと考えて過ごしてきた」と話した。

【良き伴走者と素敵な人生を】

 タンデムのことを耳にすると、壽美さんは光重さんとともにすぐに同会の門をたたいた。
 当時を振り返り、壽美さんは「体験させてもらって風を切って乗れる楽しさに喜びを感じた」と笑顔を見せた。
 目が見えなくなった今でも、日常生活のほとんどを問題なくこなすという壽美さん。毎日の料理はもちろん、孫の誕生日にはケーキを焼いたりもするという。買い物に行ったり、オーブンの温度設定をしたりするのが光重さんの役目となっている。
 しかし、タンデム自転車に乗るときは、光重さんがリードし、風を切る喜びをともに味わう。「タンデムは本人が楽しみにしているのでサポートしないといけないという気持ち」と光重さん。そんな人生のタンデム走行も、43年目に入った。
 「どんな障害があったとしても、どうしようかと考えていたら、いろんな人との関わりの中で楽しいことがきっと見つかる」と常に前向きな人生を過ごす壽美さん。そんな言葉の端々に、生きるヒントのありかを見た。

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