祝!ユネスコ世界記憶遺産登録 シベリア抑留資料 引揚記念館から世界へ、未来へ発信 さらなる資料の保存と活用を 待ちわびた関係者ともに喜ぶ【舞鶴】
投稿日時:2015年10月13日(火)
舞鶴引揚記念館所蔵のシベリア抑留と引き揚げ関係資料が、ユネスコ世界記憶遺産登録に決まった。10月10日未明の発表に関わらず、朗報の知らせを引揚記念館で待っていた市職員や市民らが喜びに沸いた。戦争を知らない世代への史実の継承と平和の発信に一層弾みがつく。今後、記念館はさらなる資料の保存と活用を進める。(青木信明)
アラブ首長国連邦で開かれたユネスコ(国連教育科学文化機関)の国際諮問委員会で、申請された約90件が審査され、日本からは2件が登録された。市は抑留中に望郷の思いなどを綴り、没収されずに持ち帰った白樺日誌、抑留者が日本で待つ家族にあてたはがき、収容所の様子などを描いたスケッチブックなど570点を申請していた。
10月10日午前2時にユネスコ本部のホームページ上で多々見良三市長が発表を確認すると、応援署名活動をした市民らが「バンザイ」と歓声を上げた。申請資料の絞り込みなどをした東京女子大学教授で市ユネスコ世界記憶遺産有識者会議会長の黒沢文貴さん(61)も駆けつけお祝いし、関係者たちがくす玉を割った。
続いて多々見市長らが記者会見。「史実を後世に継承してほしいという引揚者たちとの約束を果たせてうれしい。署名活動をした応援する会や多くの皆さんの後押しに感謝したい。ここからがスタートであり、史実を世界へ、未来へ発信したい」と語った。今後は資料の収蔵庫の整備、全国の引揚港の町で巡回展などを検討したいとする。
山下美晴館長(53)は「発表が遅れやきもきしたが、資料の価値を信じて待った。力をいただいた皆さん、ありがとうございます」と涙を浮かべながら述べた。
NPO法人舞鶴・引揚語りの会の山田昌道副理事長(74)は「資料には詰まった抑留者の思いを今後も1人でも多くの人に伝えたい」、NPO法人まいづるネットワークの会の伊庭節子理事長(66)は「引揚者をもてなした先輩女性たちの活動は、市民として誇りであり、次の世代へ伝えたい。登録は舞鶴市民にとって生きる糧になる」と話した。
13カ所の収容所を移動させられたシベリア抑留体験者で、1948年5月14日に引き揚げた安田重晴さん(94)=堀上=は「登録されたことで、もやもやした思いが多少は癒され、これまで一般的な話しかできなかった抑留体験も、今後は個人的な体験を話せると思う」と登録を歓迎した。
舞鶴ユネスコ協会の和佐谷寛会長(74)は「登録は『心の中に平和の砦を築かなければならない』というユネスコ憲章の通りに、平和の願いを全国に、次代に発信する弾みになる。協会としてもその活動を支援したい」と述べた。
舞鶴港は旧ソ連などから、1945年10月7日から58年9月までの13年間に、引揚者約66万人と遺骨1万6000余柱を受け入れた。記念館には抑留体験者らから寄せられた資料1万2000点が保存されている。
市は2012年7月に登録を目指すことを発表、昨年3月に申請し、同6月に国内候補に決まった。資料の調査にあたった黒沢教授は「絶望的な状態におかれた人間の持つ生きる希望と生命力などの普遍的主題を生々しく伝えるもので、世界が共有すべき貴重なもの」と資料の意義を示した。
登録を見据え記念館の展示方法を映像や情報端末でわかりやすくするなど、先月末にリニューアルしたばかり。今後は一層の資料の活用や平和学習の充実、海外からの調査などに対応した体制に取り組む。
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