心に明かりを~身障センター・ぽーれぽーれで 「触図と点字展」
投稿日時:2021年05月28日(金)
私たち人類は今、新型コロナウイルスという見えない脅威にさらされている。これほどまでに世界中が、「見えない」ことへの恐怖を感じたことが、かつてあっただろうか。目に見える傷口とは違い、見えないことには常に大きな不安がつきまとう。
ある日を境に視覚を失い、奪われた当たり前の日常。そんな想像を絶するほどの苦難を乗り越えた人たちによる作品展が開かれている。身障センターぽーれぽーれで6月2日まで。無料。
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「触図と点字展」として開催中のギャラリー内には、神田さん(73)=吉田=の作品およそ30点が並ぶ。触って読む絵図では、動物や花、カレンダーなどを表現した。これらの作品はパソコンで専用の点字変換ソフトを使い、点字プリンタで印刷して作り出す。また展示では、ポータブルレコーダーを使った音声説明やスマホで読み取る音声コードを取り入れるなどといった工夫もした。
点字は視覚障害者にとって欠かせないものとしながら神田さんは、「見えなくなったからってすぐに点字が覚えられるわけではないし自分も書けない」とその難しさに言及。「点字と音声を組み合わせることで、見えにくくなってきた高齢者の方や色々な人に点字のことを知ってもらえるきっかけになれば」と話す。こうした思いを背景に、積み木ブロックを点字で書かれた枠に並べるような体験コーナーも設けた。
今でこそ「点字は6つの点からなる世界共通の文字。世界共通の文字というのはすごい」と笑顔を見せる神田さんだが、生まれつき見えなかったわけではない。
以前は、サッシなどの建築資材を取り扱う販売業を営み、バリバリ働く商売人だった。まさにこれからと働き盛りの40代、悲劇が神田さんを襲う。片目を失明した10年後、神田さんは全盲となった。
【感謝の気持ちで恩返しを】
これまであった視界が途絶えた恐怖と不安は、察するに余りある。
身障センターを利用し始めて8年ほどになるという神田さんは、それまでを「ずっと暗闇の中にいた」と振り返った。障害を受け入れ、一歩を踏み出すまでに要した10年を超える長い空白の年月が、その葛藤や恐怖、不安、すべてを物語っている。
戦後まもなくの頃に神田さんが目の当たりにしたのは、下を向いて肩身狭く隠れて過ごす障害者の姿で、「障害者に対する世間の風当たりは本当に強かった」と話す。
だからこそ、今の社会福祉制度の充実ぶりには感謝の気持ちが尽きないという神田さん。「周囲の人々に支えられて、今の自分がある。せっかく福祉機能を提供してもらっているのだから、誰かを元気づけられるような社会貢献をしたいし、人生を楽しく長く生きたい」と前を向く。
【暗闇で気づいた 生きる喜び】
今回の展示に参加した森下房江さん(74)=安岡=もまた、そんな葛藤を乗り越えた中途視覚障害者の一人だ。身障センターへ通い始めて30年以上になる森下さんだが、病に襲われ全盲になった当時は現実を受け入れられず、落ち込んでばかりだったという。
そんなある時、健常者のサポートのもと出かけた山登りが、森下さんの心に明かりを灯した。サラサラと頬に受ける風、耳に心地の良い川の流れや鳥のさえずり、たくさんの自然を感じる中で、「青く澄んだきれいな空ですよ」と目の前に広がる景色を説明する周りの声が届いた。森下さんの脳裏には記憶の中の青空が広がり、「見えなくなってしまったけど、私はこうして手も足も使えるし歩ける。耳も聞こえるし、話せる。ほかに使えるものを使おう」そして落ち込むのをやめた。
前を向き覚えた点字は努力と挑戦の賜物といえるだろう。今回の展示では、気に入った新聞記事を点訳したものを並べている。「時間はかかるけど、おもしろみがある」と森下さんは笑顔を見せた。
3回目の緊急事態宣言も再延長の見通しが強くなっている今、ネガティブな雰囲気が世間を暗く覆っている。しかし今こそ、私たちは神田さんや森下さんたちに学ばねばならない。絶望を乗りこえた全盲の二人の展示には、多くの気づきが溢れている。
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