ホンソメワケベラ−小さな海のお医者さん

ホンソメワケベラ−小さな海のお医者さん

投稿日時:2016年11月25日

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         2005年10月28日、沓島の南側で見たホンソメワケベラ。手前は治療を受けるキュウセン。

 ホンソメワケベラは、魚についた寄生虫を主な餌とする。成長しても12cmほどにしかならず、小さな口を活かして、他の魚の口の中やえらぶたの内側、ひれの下に入りこみ、寄生虫を掃除して回る。水族館ではしばしば、クエなどの大きな魚の口に出入りするこの魚の可憐な姿を見ることができる。
 本種は通常サンゴ礁に住み。特定の場所になわばりを持つ。他の魚たちはそこを訪れ、寄生虫や古い皮膚なども取ってもらう。さながら海のお医者さんである。
 ホンソメワケベラはしばしば、体を縦にしたダンスのような泳ぎ方をする。これは魚界では、「私は海のお医者さん!」という意味を持ち、魚たちはそれに反応し、自らの無防備な部分をさらけ出して治療を受ける。
 一方、ホンソメワケベラの擬態をする魚がいる。本種とよく似た模様のニセクロスジギンポという魚は、本種になりすまして他の魚に近づき、皮膚をかじって逃げる。海の中には、医者もいれば詐欺師もいるのだ。
 沖縄県の石垣島にはホンソメワケベラの密集した場所があり、本種に癒されるために、オニイトマキエイ(マンタ)が連日そこに集まる。ダイビングポイントとして有名な川平石崎マンタスクランブルだ。
 そんなサンゴ礁に住む小さなお医者さんが、まれに若狭湾にも現れる。泳力の乏しい魚なので、黒潮と対馬海流に乗って流されてきたのだろう。驚いたことに、当地で見かけた本種も他の魚の治療をしていた。ホンソメワケベラが寄生虫を食べるのは本能にしても、治療される若狭湾の魚たちは、これが寄生虫を取ってくれる魚とどうしてわかるのか。
 亜熱帯から来た小さな魚は、若狭湾の冬を越すことができない。しばし生きながらえるための彼らの勤めを見ると、ちょっと切ない。

写真 2005年10月28日、沓島の南側で見たホンソメワケベラ。手前は治療を受けるキュウセン。