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44年目の金字塔~「現代の名工」に漬物製造の嵯峨根さん

44年目の金字塔~「現代の名工」に漬物製造の嵯峨根さん

投稿日時:2020年04月17日(金)

 府が表彰する「京都府の現代の名工」に、本社工場を喜多に構えるあっさり漬食品工業(右写真)の嵯峨根隆文社長(62)が選ばれた。今年度は22名が受賞したが、中丹管内では嵯峨根さんが唯一の受賞者だった。

 「現代の名工」の表彰は1986年に始まり、これまでに累計763人が受賞。選定の対象者は、府内の各産業分野(伝統産業を除く)で、最高の技能を発揮して産業発展のために貢献している人としており、今年度は府下全体で21職種22人が選ばれた。漬物製造に携わって44年になる嵯峨根さんは、「製造工程の見直しや改善を図ることで、加熱処理を伴わずに一定の品質保証期間を実現した」ことや「製造方法の刷新によって安定した味付けを可能にした」ことなど、不断の努力で製造技術を磨き続けたことが評価されての受賞となった。新型コロナウイルス感染症対策により表彰式は中止となったが、届けられた表彰状を手にして嵯峨根さんは「(受賞は)周りで支えてくれる人たちのおかげ。毎日毎日何十年も力を貸してくれた従業員や、様々な形で導いていただいた方々、すべての人に感謝したい」と話し、「これまでの道のりを振り返る良い機会となった」と満足感を漂わせた。

【親子三代 さらなる高みへ】

 1957年、吉原で嵯峨根さんは生まれた。3人きょうだいの末っ子で、生家は八百屋を営んでいた。その頃から漬物は店の一角で作られていた。嵯峨根さんは朝早くからひたすら働く父の姿を見て育った。これまでの「現代の名工」受賞者はいずれも、職に就いてから40年以上が経過した人となっているが、嵯峨根さんは小学生の頃から漬物製造を手伝っていたという。そう考えると、すでに半世紀以上漬物と共に歩んだ人生だということになる。当時は「遊びに行きたい気持ちを何とか抑えて手伝いをしていた」と振り返る嵯峨根さんだが、高校卒業後に進学で舞鶴をいったん離れた後に帰郷すると、徐々に漬物製造の魅力に取りつかれていった。当時はそのままの水道水で漬けていた漬物を、何とか良い水で作ることが出来ないかと試行錯誤。水質の改善に取り組む豆腐メーカーの門を叩き、教えを請うなど精力的に動いた。そんな時、会社の方針を巡って創業者の父と対立することもあったが、合計で4度工場を新設するなど挑戦を続け、今では従業員45人を擁する漬物メーカーに会社を育て上げた。今、漬物製造の現場は息子である健人さん(35)に任せているという嵯峨根さんは、「先代との関係を反面教師にして、私は全く口出しをしないと決めています」と話し、「自分では考えもつかなかった観点で味を作る能力には舌を巻く」と全幅の信頼を寄せる。「私は中継ぎ投手。父が育てた苗を私が育て、息子が花を咲かせてくれる」と嵯峨根さん。「今回の受賞は名誉なことではあるが、父の努力の上でたまたま私がいただいた。このバトンをしっかりと次代に繋げられるよう精進したい」と凛とした表情で話した。中小企業の事業承継が全国的な課題となっている今、当地の成功事例の今後に期待したい。

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